十数年前に制作して、「四季の森公園」(栃木県栃木市)とその周辺に設置していただいた絵付きタイルを見に行った。この仕事を始めた初期に、試行錯誤しながらなんとか100枚ほど形にしたものだ。使用した絵の具の耐久性についての確証が得られないまま、見切り発車という形で試作したため、十数年を経た今、タイルと絵の状態を確認しに出かけたというわけだ。
対面すると、タイルはすべて無事で、絵柄が消えるとか割れて剥落しているといった事態は免れていた。また、汚れやシミも少なくてホッとした。
下の写真はその一部。








十数年前に制作して、「四季の森公園」(栃木県栃木市)とその周辺に設置していただいた絵付きタイルを見に行った。この仕事を始めた初期に、試行錯誤しながらなんとか100枚ほど形にしたものだ。使用した絵の具の耐久性についての確証が得られないまま、見切り発車という形で試作したため、十数年を経た今、タイルと絵の状態を確認しに出かけたというわけだ。
対面すると、タイルはすべて無事で、絵柄が消えるとか割れて剥落しているといった事態は免れていた。また、汚れやシミも少なくてホッとした。
下の写真はその一部。








陶磁の焼成時には、棚板と呼ばれているセラミック製の板を使う。1000℃以上になる炉内で使用する耐火物だ。一般的な陶磁器焼成に使用される棚板は、「炭化ケイ素」(Silikon Carbide、化学式SiC)と、(主に)酸化ケイ素 (Si2O3)を結合させたもので、専門的には「酸化物結合SiC」という。熱膨張が比較的小さく、熱伝導性・遠赤外線放射特性・強度・耐久性に優れ、経済的であること等、その性質から棚板として使われている。炭化ケイ素と酸化ケイ素の調合割合、その他の要素によって、同じSiC棚板でもさまざまな性質を持つという。炭化ケイ素は、「ダイヤモンド」(新モース硬度15)、「炭化ホウ素」(新モース硬度14)に次いで地球上で3番目に硬い化合物だそうで、新モース硬度は13ということだ。
試作品の制作にあたり、大型のSiC棚板を切断する必要に迫られ、思案した結果、ご近所の「有限会社 品田石材」さんに相談し、切っていただくことになった。工場内には、1m程もある巨大な切断用ダイヤモンドホイールもあったが、残念ながら、持参した棚板を切断するには、その巨大なホイールは使用しなかった。切断作業に入ると、棚板は予想以上に硬く、通常の石材の切断よりも時間をかけて、少しずつゆっくりと切断ホイールを動かさなければならなかった。品田石材のご主人によると、「通常の3倍くらいの時間」ということだった。ご主人と若旦那には、手間を取らせてしまったが、おかげさまで、棚板はとても綺麗に切断された。
土鍋での調理と遠赤外線との関係について調べると、図らずもそれら両者の希薄な関係性を再認識することになる。土鍋の販売関係の領域では「土鍋での料理」と「遠赤外線」とが結びつけられて語られていることが多い。対して、実用遠赤外線分野やその工学領域ではかなり様相が違う。そこでは「遠赤外線と料理」に関して、土鍋がほとんど登場しないのだ。このことは、遠赤外線の専門領域では「土鍋での調理」というカテゴリーが希薄なことを意味するだろう。
それは何故か。理由は遠赤外線加熱が放射によるからだと思われる。以前も書いたが赤外線放射とは、空気や真空、もしくは赤外線を透過する媒体を赤外線が電磁波として伝わっていくことだ。換言すれば、加熱するモノと加熱されるモノとが物理的に離れているか、それら両者の間に赤外線に対して透明な媒体が介在している状態でなければ、赤外線放射という現象は発生しない。煮汁を伴う料理操作では、煮汁が土鍋の内側に密着しているのだから、その部分に遠赤外線放射は(基本的には)起こらない。「煮る」という料理操作は、さまざまな料理操作中の一部ではあるけれども、料理に於ける最も基本的な形態のひとつであり、料理操作全体の中でもそれなりの比重を占めるだろう。従って、遠赤外線加熱による利用分野の中で、土鍋での料理というカテゴリーが希薄になると推測できる。
それでは食品調理や食品加工に於いて、遠赤外線加熱はどのように活用されているのか。遠赤外線独自の性質を有効に利用しようと思えば、料理操作も或る一定のカタチを持つことになるだろう。熱源から離れているモノを加熱するのが得意な遠赤外線なのだから、「焼き網」や「串」を使用する料理操作では遠赤外線を有効に活用することが出来る。言い換えれば、熱源から離れている食材を「焼く」加熱に於いて、遠赤外線はその特性を最も発揮しやすいと言えるだろう。私の目にとまった資料の中で、遠赤外線加熱による食品加工例として取り上げられているのは、コーヒー豆のロースト、パンのトースト、ウナギを焼くこと、海藻や野菜の乾燥、せんべいやビスケットなどの焼き上げ、焼き海苔の製造、保存食品の乾燥処理、等だ。
市販されている土鍋の多くが、比較的有効な遠赤外線放射体であることは十分に考えられることだけれども、煮炊きの場合、鍋(の内側の煮汁に接していない部分)から食材に対して放射される遠赤外線よりも、鍋の外側から外部空間に対して放射される遠赤外線の方が比率として多いということも考えられるだろう。
さてここまで書くと、調理に於ける土鍋独自の機能と特質について、いったん遠赤外線から離れて考えてみる必要がある、ということになるだろう。以前、『「耐熱」とオーブンと直火』の冒頭で、「土鍋について、少し書こうと思っていただけなのに、思わず饒舌になり、大きく遠回りしてしまっている。話を戻して、ここからは、調理における土鍋の基本的な特質について書いてみたい。」とも書いた。とはいえ、それはそれで簡単な話でもないと思われるので、今回はここまでにさせていただく。
当サイトの挨拶のページにも少し書いたが、焼き物を作り始めた当初、私はガーデンコンテナーのみを作っていた。植木鉢を作るためにはじめた焼き物だったので、食器を作ることに興味は無かった。 話は飛ぶが、私の生活圏である群馬県桐生市には、以前、「生活の木 梅田の里」という店があった。ご存知の方も多いだろうが、「生活の木」は、 東京の表参道に本社を持つハーブ・アロマテラピーの専門店で、「梅田の里」はその支店だった。当時、「梅田の里」から大型のガーデンコンテナーの注文を戴き、何度か店に足を運んでいた私に、期限が切れて販売できないハーブの種を、店長さんが分けてくれたことがあった。期限切れとはいえ植物の種なので、発芽能力が残っている物も多かった。そんなこともあって、もともと植物を栽培するのが好きだった私は、50種類ほどのハーブの種を蒔くことになり、その結果、大量のハーブを使い切ることができず、苗を販売するようになった。
また話は飛ぶが、東京都目黒区、東急東横線の学芸大学駅近くに、「みどりえ」というレストラン&デリの店がある。オーガニック食材のみを使用して料理を提供し、連日多くの人が訪れている人気店だ。常に消費者の立場を最優先にして料理を提供する姿勢は一貫している。以前、春先の一日を、「みどりえ」の店頭で過ごしていた時期があった。ハーブ苗を、出張販売していたのだ。その時のハーブ苗の多くは、先述の「生活の木 梅田の里」で戴いた種を蒔いて育てたものだった(念のために書いておくが、現在の私は苗の販売はしていない)。 先日、「みどりえ」オーナーの萬(よろず)さんに、久しぶりにお会いする機会があった。最近は、東京での展示会のDMをお店に置かせていただいてはいるものの、お目にかかることも少なくなってしまっていたが、萬さんは、私が苗の販売をしている頃には、私の工房と畑を訪れてくれたこともある人だ。
前置きが長くなってしまったが、この「みどりえ」の店頭に、期間限定で、土鍋を置かせていただけることになった。詳細は後ほどお知らせする。
土鍋を制作する際の主要原料のひとつであるペタライトは、アフリカのジンバブエから輸入されている。以前はブラジル産ペタライトも輸入されていたが、現在、ブラジル産の輸入は行なわれていない。ペタライトの最大の特徴であるリチウムの含有量は、ブラジル産よりもジンバブエ産の方が僅かに多い。ブラジル産は価格が低めで、私のような超零細個人には有り難い存在だった。
私が土鍋を作り始めた頃、すでに国内における主要流通品はジンバブエ産だった。陶磁原料店経由でペタライトを使い始めていた私も、当初はジンバブエ産を使用していた。或る時、他にブラジル産が流通していることを知り、輸入販売元にその旨を問い合わせた。すると大阪に本社を構えるその会社の東京支店の方が、資料を持って群馬の私の工房まで足を運んで下さった。以来その会社と取引をさせていただいているが、何年か前、ブラジル産ペタライトの取り扱いが無くなるとの知らせを受けた。理由は、「輸入を辞める」からと云うことだった。国内の主要流通品はジンバブエ産で、ブラジル産は売れ行きが芳しくなかったようだった。
けれどもこの話は少なからず私を落胆させた。ブラジル産ペタライトを知った当初、そのサンプルを入手した私は、それまでの(ジンバブエ産ペタライトを使用して制作していた)土鍋と同様のモノがブラジル産ペタライトを使用して作れるか否かを、時間をかけてテストし、同様の土鍋を作ることが可能であることを確かめて購入を決めたのだった。価格が低いにも拘わらず高性能な土鍋を作ることが出来るブラジル産ペタライトを、もちろん私は気に入っていた。しかしながら「輸入を辞める」という取引先の決定を受け入れる以外に私に術は無く、長いこと使用し続けたブラジル産ペタライトから、ジンバブエ産ペタライトに再び移行することになったのだが、こちらは、やはり価格が今までの物より高かった。しかも購入するたびに値段は上がり続け、現在は大幅に高く推移している。
そのあたりの由来に興味を持ち、「Wikipedia」でジンバブエ関連を調べてみた私は、別の意味でため息をつくことになった。植民地支配と人種差別、独立運動と内戦、強権政治と人権抑圧、経済危機とハイパーインフレなどの様々がそこに記され、さらに2007年に「先例のない経済崩壊」と評されたジンバブエ経済のインフレ率は2009年には、「6.5×10108(6,500,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000)%」
という天文学的数字になったと云うことだった。その結果、2度のデノミネーションを経て、1000億ドルが10ドルになるという凄まじい経済的起伏も経験し、以来、ジンバブエ政府はジンバブエ・ドルに代えてアメリカドル、南アフリカランド、ユーロ、英ポンド、等を法定通貨にした。
現在のジンバブエは比較的安定した状態にあると云うことだが、ここに来てついに「同国中央銀行は11日、事実上価値の無くなったジンバブエドルを米ドルに両替して回収すると発表。両替レートは実に、1ドル=3京5000兆ジンバブエ・ドルだ。」とロイター通信(2015年6月12日)が報じている。
経済的情勢や「独立運動」や「内戦」等、ニュースやメディアの向こう側で使われている単語が、にわかにリアリティーを持って意識されるのを、私は感じざるを得なかった。ペタライトの価格に対する疑問は、如何ともし難い現実の一端にこのような形で触れる結果を招き、全く腑に落ちないまま、それが私の中に居座る事態を招いた。
ただそこに存在するだけで、戦争を含む全ての事象と無関係ではいられないのが20世紀以降の私達の位置だ、という意味のことを書いたのは、20世紀後半時の埴谷雄高だったが、さらに加速する国際化とグローバル化で、あらゆる事象の境界がより曖昧になっているのが現在の姿だろう。例えば製造物を例にしてみれば、或る製造物を構成するたった一本の小さなピンに至るまで、その所在の境界と元を辿れば、それがどのメーカーで製造されたのか、そのピンを構成する原料鉱物はどこで採掘されたのか、或いはその原料鉱物を採掘するのに使用した重機はどのメーカー製で、その重機を構成する全ての部品はどのメーカー製で、その原料はどの鉱床産で、その鉱床で使用する重機はどのメーカー製で、と永遠に堂々巡りをしてしまい、ついにはそれを明らかにすることが出来ないという状況が私達の位置だ。それらは全て前述の国際化とグローバル化により、あらゆる攪乱を受けて世界に拡散し、無限に連鎖しているだろう。具体と抽象を問わず、好むと好まざるを問わず、また、多少を問わず、私達もその無限連鎖の関係性の一端ということになる。つまり私達とその生活を形成する意識や食物や道具やその他の全ては、その相互作用の中にある。そういう意味で、ジンバブエと私は紛れもなく無関係ではない。今回の件では、その当たり前の現実を突きつけられたような気がした。
今回、原料の在庫切れに伴ってペタライトの見積もりを依頼したところ、「為替と原料価格が大幅に上がっており、単価が高くなっております。」とのコメントと共に、驚くほどの値段を提示された。その価格については、ジンバブエのインフレが原因だという意味のことが書かれている文献もあり、また、ペタライトの日本国内に於ける独占販売状態が原因だという意味のことが書かれている文献もある。付け加えれば、リチウム電池生産量の拡大につれて、リチウム資源の需要が増大している現状も、このことと無関係とは云えないだろう(但し、リチウム電池には、ペタライト以外のリチウム原料を使用するらしい)。それが米ドルと日本円で取引されているであろうということは推測できるけれども、1米ドル=3京5000兆ジンバブエ・ドルという経済状況の国の輸出品であるペタライトが、どのような経緯で日本に輸入され販売されているのか、実際のところは、経済に疎い私には不明だが、日本におけるその販売価格がさらに高騰しないように、また、情勢の変化でその輸出入が中止されないように祈るばかりだ。
ペタライトの価格上昇は、当然のことながら土鍋を制作する作家(又は企業)の、コストに対する不安を呼ぶことになる。個人から企業に至るまで多数が活動する陶磁器産地には、公的な窯業技術研究機関がある。そしていくつかの研究機関は、ペタライトの代替原料を開発するという形で、価格高騰の対策をすでに講じている。これらの地域で活動する作家(もしくは企業)は、その地域の公的機関が開発した研究成果を、支援という形で利用することが出来る。けれどもその窯業技術機関が存在する産地外(県外)で活動する作家(や企業)に、その研究成果を直接的に利用する術は無い。
さて、ペタライトをめぐって話を進めてきたが、内容は、陶磁器産地と公的窯業技術機関と産地外の陶磁器制作者との関係へと移ってきた。この周辺のことでも思うことはあるのだが、それはまた別の話なので、今回はここで終わりにさせていただく。とにかく、悪あがきはこのくらいにしてペタライトを購入しなければ仕事が進まない・・・。