耐熱衝撃性セラミックスの性質

 例えばリチア素地と一口に言っても、使用原料や調合量や製造方法は無限のバリエーションを持つ。だから自分の思い通りのモノを作るのは簡単なことではない。優れた性能を備えた土鍋用の市販素地もあると思うが、それで思い通りのモノが出来るとは限らない。・・・私の場合は、求める性質を得るために、原料を入手し、調合を行い、自分で素地を制作している。何年にも亘(わた)って延々と行なってきた素地や釉薬の検証は今も続けている。そのために公的試験機関のお世話にもなっている。

 高い頻度で使われる日常使いの土鍋は、強度や耐久性を保持しつつ使い勝手に優れていた方がいい。だから設計上も過不足のない性能と形状が求められる。ある機能を伸ばすと、必ず別の機能が損なわれるという現象が起こるため、製品は微妙なバランス感覚の上で制作することになる。

 “技術的”に見れば、土鍋に要求される性質の最も基本的な要素は低膨張性ということだ。”耐熱”或いは”耐熱性”という言葉は、高い温度に耐えるという意味と急激な温度変化に耐えるという意味の二通りに使われるが、土鍋に必要なのは後者の急激な温度変化に耐える性質だ。この性質を「耐熱衝撃性」という。セラミックスの場合、基本的には素地を低膨張にすることによって耐熱衝撃性が高まる。それを利用して耐久性に優れた土鍋を制作することも可能になる。

 セラミックスの耐熱衝撃性は、機械的強度・靱性・熱伝導度・熱膨張などに影響される。セラミックスは金属に比べて熱伝導度・靱性・に劣る。だから、急激な温度変化を受けると、その部分と他の部分に温度差が生じ、そこに熱膨張差による容積変化が起こる。この容積変化の歪みが大きくなり、素地がそれに耐えられなくなった時、破壊が起こる。これが熱衝撃破壊であり、それに対する抵抗性の高いものが耐熱衝撃性セラミックスだ。

 もしも仮に熱膨張値の大きな素地を使用した土鍋でも、その素地が熱伝導性に極めて優れていたとすれば、鍋底を加熱した際、瞬時にその熱変化が土鍋の隅々にまで及び、膨張が均等に発生するので、容積変化による歪みは起こらず、熱衝撃破壊は起こらないということになる。また、金属のような靱性が土鍋に備わっていれば、当然、加熱・冷却時の破壊も起こらない。けれども残念ながらそのような性質はセラミックスには備わっていない。熱衝撃破壊を回避するもうひとつの方法は、加熱時の膨張を小さくして容積変化による歪みを減らすという事で、セラミックスはこの方法を選ばざるを得ない。そこで低膨張セラミックスが必要となる。