「セラミックス」カテゴリーアーカイブ

sic棚板の切断

 陶磁の焼成時には、棚板と呼ばれているセラミック製の板を使う。1000℃以上になる炉内で使用する耐火物だ。一般的な陶磁器焼成に使用される棚板は、「炭化ケイ素」(Silikon Carbide、化学式SiC)と、(主に)酸化ケイ素 (Si2O3)を結合させたもので、専門的には「酸化物結合SiC」という。熱膨張が比較的小さく、熱伝導性・遠赤外線放射特性・強度・耐久性に優れ、経済的であること等、その性質から棚板として使われている。炭化ケイ素と酸化ケイ素の調合割合、その他の要素によって、同じSiC棚板でもさまざまな性質を持つという。炭化ケイ素は、「ダイヤモンド」(新モース硬度15)、「炭化ホウ素」(新モース硬度14)に次いで地球上で3番目に硬い化合物だそうで、新モース硬度は13ということだ。

 試作品の制作にあたり、大型のSiC棚板を切断する必要に迫られ、思案した結果、ご近所の「有限会社  品田石材」さんに相談し、切っていただくことになった。工場内には、1m程もある巨大な切断用ダイヤモンドホイールもあったが、残念ながら、持参した棚板を切断するには、その巨大なホイールは使用しなかった。切断作業に入ると、棚板は予想以上に硬く、通常の石材の切断よりも時間をかけて、少しずつゆっくりと切断ホイールを動かさなければならなかった。品田石材のご主人によると、「通常の3倍くらいの時間」ということだった。ご主人と若旦那には、手間を取らせてしまったが、おかげさまで、棚板はとても綺麗に切断された。

泥漿中の気泡について

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 そんな中で、土鍋素地のテストに再び取り組み始めた。各140グラムずつ、7種類のテスト用素地泥漿を作った。調合直後の泥漿には多くの気泡がある。下の写真でお分かりだろうか。この気泡が無くなってからでないと、制作を始めることはできない。メーカーなどは、数日をかけて気泡を除くという話を読んだこともあり、あるいは真空撹拌機などを使用することもあるだろうと推測できるけれども、私の場合は、通常の土鍋制作の場合、最低3時間ほど攪拌機にかけて気泡を除き、更に1日以上経過した泥漿を使用して制作を行なう。とはいえこれは私が使用している設備での話なので、普遍性はあまり無い。

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 今回の泥漿は、調合して一晩おき、翌日攪拌してテストピース作りに使うことにした。

 一晩経過した翌日の泥漿が上の写真。気泡が確認できるだろうか。

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少量の泥漿なので、インパクトにプロペラを付けて攪拌する。

 攪拌後の泥漿の状態。気泡が無くなっているのが分かるだろうか。殆ど目で見えないような細かい気泡も取り除く必要がある。私が行なうような古典的な製法では、実際にはおそらく気泡を完全に除去することなどできないと思うけれども、少なくとも肉眼で確認できる範囲での気泡は完全に除去してから制作に移ることにしている。実際の作業では、例えば土鍋を数日に亘り制作し続けた場合、ことあるごとに攪拌しながら作業を続けるわけだから、泥漿中の気泡は更に少なくなる筈で、テストの段階でこの状態にできるだけ近づけなければ、データと実物に乖離が起きてしまう。

 気泡による影響は、素地の全てに及ぶだろうが、目で確認できるような気泡の影響を一番強く受けるのは強度だろうか。土鍋を作り始めた頃は、攪拌機を使用していなかったので、肉眼で確認できる気泡を除去するのに数日を要したが、気泡が或る程度少なくなった時点で制作に移ってしまっていたし、それで良いと思っていた。以前を振り返り、「それで良かった」と、いま思っているわけではないが、数日をかけて気泡をできるだけ取り除こうとしていたのだから、それなりに良くやっていたと思う。

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 7種類の泥漿で、各3個ずつ、計21個のピースを作った。今回のテスト結果次第で、今後のテスト内容が決まってくる。さて、どうなるのやら。

テストピース

 このところ新しい釉薬作りに取り組んでいる。候補を6点まで絞り、先日、試験機関に送付した。

 ゼーゲル計算や工房内のテストで、その6点の大まかな性質は把握できている。食器や置物用の釉ならばこの時点で完成ということもあり得るけれども、鍋釉の場合、少なくとも熱膨張データは把握しておかないと不安なので、私は試験に出すことにしている。

 素地と釉との数値データの近似性だけが釉選択の基準になるのではないが、それを無視して釉を選択することもできない。自分がイメージする完成形に近い結果が得られるように、釉の数値データに幅を持たせ、その幅の中で釉を選択することになる。完成形のイメージと釉の数値データに乖離がありすぎると、しばし途方にくれ、また別のアプローチを考える。

 素地と釉の適合性は熱膨張だけに限定される訳ではもちろんない。他にも種々の要求に応じたさまざまな要素がある。けれども、試験には費用も掛かるので、その兼ね合いの中で選択して実施することになる。