「生物など」カテゴリーアーカイブ

オリーブの木

 工房の東側にあったオリーブの木が枯れた。20年ほど前に苗で購入して、数年間はコンテナで栽培し、後に現在の場所に植え付けたものだ。植え付け当初はなかなか大きくならず、実も多くは成らなかったけれども、このところは工房の訪問者から驚かれるほど立派な木になっていて、実の数も多くなってきたところだった。これからを楽しみにしていたのだが、一昨年、枯れ枝が出はじめ、昨年さらにその範囲が広がり、全体が枯死していることが今年明らかになった。元気に成長していた木が枯れた原因は私には不明で、枯れた木を見るたびに釈然としない思いに捉われていた。それが先日、その原因と思われる事柄が忽然と頭に浮かんだ。

 5年ほど前だったと思うが、所用で出かけた帰り道、ある店でシイタケのほだ木を数本購入した。既に使用済みで廃棄する寸前のほだ木であることは一見して分かったのだけれども、格安だったので軽い気持ちで購入し、持ち帰ってオリーブの木に立てかけて置いたのだった。ただ、ろくに管理もしなかったため、結局シイタケも殆んどならず、ほだ木は2~3年程放置した後に廃棄した。そしてそのほだ木に付着していたシイタケ菌かあるいは別の菌が、数年の間にオリーブの木に移行してこのような事態を招いたのではないか、と思い至った。もちろんこのことに確証があるわけではない無いが、どう考えても他に原因は考えられない。愚かなことに私は、たった数百円の買い物品を無思慮にあてがった為に、20年以上成長していた木を枯れさせてしまった。しかも結局シイタケも採らずに・・・。

 その枯れたオリーブの枝につる性野菜を這わせようと、木の周辺に野菜の苗を植え付けていた時、根元から見慣れない草が新芽を伸ばしていることにふと気づいた。普段あまり見かけない草だな、と思いながらよく見ると、それはなんとオリーブの「ひこばえ」だった。そのことを認識した時、淀んでいた或る部分を一掃するような感動を覚えた。枯れたと思っていたこのオリーブは生きていた。その根元から美しく生気に満ちている新芽が何本も伸びている。ひこばえが珍しいものではないことは承知しているけれども、枯れゆく様を約2年にわたって為す術もなく見守り続けたこのオリーブからひこばえが出るとは、不覚にも私には思いもよらないことだった。

 昨年の7月、ヤマトタマムシに関連して、「私の意識を遥かに超えて動いている昆虫のセンサーと自然界のダイナミズムに感嘆せざるを得ない。私自身もセンサーを敏感に働かせ、『一を聞いて十を知る』というような広い視野で目の前の事物を見据えていきたいと思うが、それは簡単なことではないだろう。」とこのブログに書いたが、恥ずかしながらその後の私にそれが実践できている筈も無く、今回も同じ思いを抱いている。

 そんなことで、このオリーブはまた一から歩み始めることになった。

 

 

ニワトリと野生動物 ②

 それにしても11羽ものニワトリを1夜のうちにキツネは持ち去るのか? 複数頭の仕業なのか? 3方向への足跡は確認できたが・・・。生態を少し調べてみると、キツネは春に数頭の子を産み現在はおそらく子育て中で、オス以外にも、前年に生まれたメスが子育てに協力している可能性があることがわかった。  これらのことからニワトリを襲ったのは複数である可能性が高いと推測できる。

 数日後、別のご近所さんに聞いたところ、その方の畑にも何者かが掘り返したような穴があり、鳥の黒い羽根が落ちていたとのことだった。うちで飼っているニワトリは「名古屋コーチン」と「ネラ」で、そのネラはまさに黒い羽根をまとったニワトリだ。おそらくその穴は、(この事件が仮にキツネの仕業だとすればキツネが)事件の夜に得たニワトリを一度そこに埋めて、後で掘り返して持ち去った跡ではないか。そして先述の私が持ち帰った名古屋コーチンは、やはりそのようにして一時的な保管場所として埋められたと推測できる。その後、近所を散策がてらリサーチを続けていると、工房から500mほど離れている場所に、ニワトリのものと思われる黒い羽根の塊が落ちてもいた。

 以上から以下が推測できる。

  • 4月13日の夜から14日の朝にかけて(おそらく明け方)、すでに運動場に出ていたニワトリに目を付けて、複数のキツネが運動場部分の防獣網を破り運動場に侵入した。
  • その際、ニワトリは運動場と小屋との境の子扉から小屋へと逃げた。
  • 運動場に侵入したキツネは、子扉から小屋内に侵入してニワトリを襲い、何羽かを仕留めた。
  • 何羽かのニワトリは子扉から運動場に逃げた。
  • キツネもニワトリを追いかけて運動場に戻りそこでも何羽かの鶏を襲った。
  • 何羽かは小屋の外にも逃げたかもしれないがそのニワトリも襲って仕留めた。
  • 仕留めた11羽は、何頭かのキツネがそれぞれ一羽ずつ銜えて持ち去り、小屋との間を何往復かして一時的な保存のために分散して各所に埋めた。
  • 翌日以降、順次掘り返して食べた。

以上は推測の域を出ないが、今後、事態の甘い予断は許さない状況だろう。

 

ニワトリと野生動物 ①

 この4月13日の夜から14日の朝にかけて、飼育しているニワトリが襲われた。14羽のうちの11羽が持ち去られ、残ったのは3羽のみ。15年以上ニワトリを飼っていて、こういう被害にあったのは初めてだ。私の油断が招いた惨劇で、鳥たちには本当に申し訳ないことをしてしまった。

 鶏小屋は小屋と運動場の2区画に分かれていて、小屋そのものは防獣対策がなされていて獣が入り込めないように作ってある。けれども運動場は市販の防獣網で周囲を囲っているだけなので、獣に対して万全とは言い切れない。小屋と運動場との境界壁の下部には、ニワトリが双方を自由に行き来できるように、スプリング蝶番付きの小扉を設置してある。この小扉には手動のロック機構が備わっているので、人がロックを掛ければ、運動場側の網が破られても小屋への外敵の侵入は出来なくなる。この小扉は通常は24時間「開」の状態で、鷹などの猛禽類が周囲に観察された時や何らかの気になることが起こった時に、ロックを掛けていた。ただ私の中にそこが弱点だという認識はあった。だから小扉を「開」にしている時は常に安心しきっていない自分を感じてもいた。けれども何も起こらなかったことで慣れてしまい、危険な予兆があったにもかかわらず、それを読み違えてしまった。

 この1週間から10日ほど前だったと思うが、小屋の側面下部に、動物が掘ったと思われる跡を発見した。この跡は深さ10㎝ほどまで掘られていた。そしてこの後、5日ほど小扉をロックして様子を見ていた。そして変化が無かったため再びロックを外したのだった。

 侵入口は運動場側で動物侵入防止用ネットが破られていた。鳥の羽が散乱し、1羽の死骸も残っていなかった。犬や猫の仕業ならば11羽がすべて持ち去られる可能性は少ないことから、当初は人間による窃盗かとも疑ったが、事件の翌日、早朝に散歩をしていた何人かに聞きこみを行なったところ、意外な動物の名前が挙がった。それは「キツネ」。少し前から複数の狐が目撃されていた。「ちょっと前まであっちの藪に5匹で住み着いてた」、「2日前にも線路を渡っているのを見た」、「あっちの田んぼの向こうで見た」など、皆さん良くご存知だった。

 午後、斜向かいの畑で作業中だったお2人さんに今回の件を話したところ、あそこにニワトリが1羽埋まっていた、と指さされたのはその畑のほぼ中央付近の場所だった。作業中にニワトリを発見したものの回収できずに困っていたところだったという。見れば私の所で飼っていた「名古屋コーチン」に間違いなかった。

 さてそれらの情報をもとにインターネットで足跡の見分け方を調べて現場を再確認したところ、鳥小屋周辺の畑にニワトリの足跡と共にキツネのものと思われる足跡が残っていた。

※ ニワトリと野生動物 ②

 

薪作りとヤマトタマムシ

 工房前の庭で作業をしていた時、胸元に何かの虫がとまっている気配を感じ、驚いて思わず手で払うと、足元に落ちたのはヤマトタマムシだった。手にとってみると、突然払われてショックを受けたのか、タマムシは動かないままだったが、しばらくするとやがて元気に動き始めた。  サイトが消えてしまったPCのトラブルで日付は確認できないが、以前もタマムシのことを書いたのを覚えている。

※「サイトの消失と再開について」参照

  タマムシの生態に詳しくはないので少し調べてみた。『群馬県レッドデータブック 動物編 2012年改訂版』によると、ヤマトタマムシは群馬県では「準絶滅危惧」というカテゴリーに分類されている。全国的にも個体数は減少傾向にあるようで、他の都県などでも種々の「絶滅危惧」カテゴリーに分類されているようだ。また、ネット検索で「タマムシ愛好会」というサイトを見つけ、参考にさせていただいた。同レッドデータブックと「タマムシ愛好会」のサイトによると、

  • ヤマトタマムシの生息域は、平地帯 亜山地帯 夏緑広葉樹林 住宅地公園 里山など。
  • エノキ、ケヤキ、カシ、ナラ、クヌギ、ハリエンジュ、サクラ、オニグルミ、カキ、など各種広葉樹の半枯れ部、伐採木、伐採直後の切り株、等に産卵する。
  • 幼虫は産卵された樹を食餌し、食餌内容や成育環境によって、2年から4年程で羽化する。
  • 成虫はエノキ、ケヤキの葉を後食する。
  • 生息域の開発行為、農薬汚染、朽木や倒木の回収や撤去、樹木の枯死対策のための消毒などにより、個体数が減少している。

ということだ。詳しく知りたい方は「タマムシ愛好会」というサイトを見ていただければ、と思う。

 主に窯焚きとストーブと風呂に使用する薪を、私は原木から作っている。薪割りの際にいろいろな虫が木の中から出てくるのは珍しいことではなく、それがどのような意味を持つのかを考えたことはこれまで特になかった。けれどもヤマトタマムシが準絶滅危惧種だと知ったのをきっかけに、少しその意味を考えてみた。

   このタマムシはどんな経緯でこの場所にやってきたのか。積み置いている原木に幼虫がいたのならば、その原木の元の所在地にタマムシが生息していたことになる。また産卵のためにこの場所に成虫が飛んできたのならば、この近くにタマムシの生息場所があることになる。けれどもその場合、どうしてその生息場所で産卵しないのか、と疑問が残る。だからどちらかというと、原木中に生息していた幼虫が羽化した可能性が高い。つまり原木の搬入時、原木中にいたタマムシを一緒に連れてきたことになる。そう言えば、胴部?に比べて頭部が急に大きくなっているカミキリムシの幼虫に似た幼虫を、薪割り時に多く見かけていた。いま思えば、あれがヤマトタマムシの幼虫だったのだと思う。迂闊な私はそれを調べずにカミキリの幼虫の一種だろうぐらいに思っていた。

  私が原木を入手する場所は様々だが、その一つとして造園屋さんの木の置き場がある。また、その時々で声をかけていただき、屋敷林や空き地など様々な場所から、木を運ぶことになる。そのいずれもが必要に迫られて伐採された木々だ。私がもらい受けなければこれらの木々は処分されてしまうのだから、引き取って私の所に置いておけば、タマムシの生息にとってプラスに作用するようにも思えるが、実はそうとも限らない。

 私の所に運び込まれれば、1年から数年以内に燃料としてその木は消費される。けれども木の伐採場所では、伐った木を片付けないケースもある。またその造園屋さんの原木置き場でも、太い木はずっとその場所に置きっぱなしになっている。先に書いたように、ヤマトタマムシの幼虫は「産卵された樹を食餌し、食餌内容や成育環境によって、2年から4年程で羽化する」ということなので、元の場所に木が放置され続ければ、より長い期間、タマムシはそこに産卵して生きられるだろう。ただしやはり先に書いたように、ヤマトタマムシは「エノキ、ケヤキ、カシ、ナラ、クヌギ、ハリエンジュ、サクラ、オニグルミ、カキ、など各種広葉樹」に産卵するけれども、「成虫はエノキ、ケヤキの葉を後食する」らしい。つまり産卵樹種(幼虫が食べる樹種)と後食樹種(成虫が食べる樹種)とが異なる場合もある。もし仮に産卵樹種と後食樹種とが異なっていた場合、羽化した成虫は後食樹種が葉を茂らせている場所へ移動しなければ生きられないだろう。さらにタマムシは「各種広葉樹の半枯れ部、伐採木、伐採直後の切り株、等に産卵する」ので、条件が整わなければ産卵できないかもしれない。総体としての自然環境の豊かさが生息には必要だ。

 環境の深化という方向性を持った個別具体的な変化がなければ、総体としての自然環境の深化はあり得ない。だからたとえ小さなことでも、その時々に気付いたことや出来ることを大切にしたい。都市や住宅地や畑作地帯では、街路樹や緑地、あるいはビオトープなどの保存と新たな創出が必要だろう。ある生物の生息場所を一つの「点」として、その行動範囲内に「点」が複数あればその生物の生息の可能性は大きく広がることになる。今回のことで言えば、タマムシを見つけた工房の木の置き場は、その「点」ということになる。造園屋さんの原木置き場も、伐採された樫の大木がある空き地も、伐られた原木が山積みになっている屋敷林も、同じように大切な大小の「点」だ。しかしながら私の生活圏を概観してもこれらの「点」は甚だしく不足しているように思えるし、現実的にそれを増やす術も今の私には思い浮かべられない。残念ながらこの場所に運ばれてきたタマムシが生息し続ける可能性は低い、と考えざるを得ない。  たとえ「都市や住宅地や畑作地帯」にあっても、小さな生き物が行き来できる距離に、それぞれが生きられる環境が当たり前のように点在する社会になればいいなぁ、と思うけれども、これはやはり難しいことか。

 ヤマトタマムシが準絶滅危惧種だと知ったのをきっかけに、薪作りに関わる自らの行動や、普段、当たり前に身を置いている環境が、生態系と密接に関係していることを改めて自覚し、目が覚める思いがした。私の意識を遥かに超えて動いている昆虫のセンサーと自然界のダイナミズムに感嘆せざるを得ない。私自身もセンサーを敏感に働かせ、「一を聞いて十を知る」というような広い視野で目の前の事物を見据えていきたいと思うが、それは簡単なことではないだろう。